歓楽街で働いていた時のこと、場所柄、酔っ払いにヤク中という迷惑客とのトラブルが多々起きるのだが、何より多いのが業務両替でのトラブルである。業務両替というのは、飲食店等の店員が自分の店の釣銭を作る目的で、ゲームセンター等に置いてある両替機でお金を崩し、お金を使わずに立ち去るという迷惑行為である。なぜ迷惑なのかは詳しく説明はしないが、やられた方としては、とっ捕まえて一方的に説教できるぐらいの立派な犯罪行為なのである。


うちの店も頻繁に業務両替をされていたのだが、そのほとんどが近隣のホストクラブである。下っ端のホストが店の釣銭を確保する為にやってくる。私の対処法としては、その場で捕まえて軽く説教した後に、名前、住所、勤務先、代表者の名前等を書類に書かせ、今後二度とうちの店でこのような行為は致しませんと誓わせて釈放という流れになっている。最初から素直に自分の非を認める者は少なく、激しい口論になることもしばしばだ。大声でホストと喧嘩しながら「俺は…今…歌舞伎町で…生きているんだ!」という田舎者に特有の興奮を最初のうちこそ感じていたのだが、あまりにも日常的になり過ぎてしまい、すぐに飽きてしまった。なのでそのうち、無駄な口論をせずにホストをおちょくることで暇をつぶしていた。


「じゃあこの書類を書いて」と書類を渡し、ホストが書類を書こうと視線を下に落とした瞬間に「こっちを見ろ!」と大声で威嚇するのが私の十八番だった。どうしたらいいか分からずに動揺するホストの姿を見るのがたまらなく好きだった。調子に乗り過ぎた時は、十回ぐらい同じことをやっていたら「書類を書いたらいいのか、お前の話を聞いたらいいのか、どっちなんだよ!」と言ってホストがボロボロと泣き出したので「この書類を書いたらこの街を出て行きなさい。君はこの街に居てはいけない人だ」と酒場のマスターのような優しい言葉を送った。彼の涙はそこそこ美しかった。鼻水をすすりながら書類を書いているホストに「出身地はどこなの?」と気持ちを落ち着けさせる為の世間話を振ったら、ふざけたのか本当なのか分からないが「奄美大島出身です」と答えてきたのにカチンと来たので「こんなことして…ふるさとの島が泣いてるよ?海が泣いてるよ?奄美のクジラとイルカが泣いてるよ?」と執拗に問い詰めたら、追い詰められて精神が崩壊しかけたホストが「海が泣いてる…?」と小声でつぶやいたので笑いを堪えるのが大変だった。
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海といえば、うちの婆ちゃんはサザンオールスターズの桑田佳祐のことが嫌いだ。その理由は、婆ちゃんが若い時に、桑田佳祐にそっくりな暴漢にレイプされかかった過去があるからなのだが、その話を聞いていた爺ちゃんが「そういえば太平洋戦争でうちの部隊を見捨てて逃げ出した兵士の顔も桑田佳祐に顔がそっくりだった」と言っていた。夫婦が同じ人を憎むことはとても素敵なことだなと思ったが、さすがに桑田佳祐に同情した。桑田が泣いている。
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こんな風にふざけた対応を日々続けていると、激高するホストもたまに現れる。この前は「外でお前を見かけたらぶっ飛ばしてやんよ!店の全員で復讐してやるからな!」と凄まれたので「復讐の為に生きるのはとてもとても悲しいことだ」とアメリカインディアンの教えにありそうな素敵な言葉を送った。
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行きつけのオカマバーのオカマと、復讐についての話をした時に「復讐は一気に終わらせちゃダメ。たとえば同僚に復讐をするなら、責任を取らせて会社を辞めさせるような簡単な復讐じゃなくて、周りのみんなに馬鹿にされながらも、会社を辞めることができずに、ずっとずっと会社に居ないといけないような辛い状況にするのが本当の復讐よ」と言うのをじっと聞いてたら「私のこと魔女か鬼だと思ってるでしょ?私はただのオカマ」と言った。インディアンの教えよりもオカマの教えの方が実践的である。


今までの人生で、誰かに復讐をしたことがあるか思い返してみると、復讐をされたことは多々あるが、自分が誰かに復讐をしたのは中学校の時に行われた農協への復讐だけだった。
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きっかけは日曜日の昼下がり、近所の公園のテニスコートでテニスを楽しもうとした僕と友達に向かって、一人のおじさんが颯爽と歩いて来てこう言った。「ここのテニスコートは今から農協のおじさん達が使うので、君達は出て行きなさい」、そう言われてもこちらの方が先にコートに到着していたし、このテニスコートは予約制ではないという僕達の正当な主張は農協により踏み潰され、最終的に「生意気な子供だ!」とビンタをされてしまった。その日、僕達は農協への復讐を心に誓った。


しかし、復讐といっても金も権力も無い中学生にできることは限られていた。とりあえず町中に農協の悪い噂を広めようと思ったのだが、どういう噂が農協にとっての悪い噂なのかが全く分からなかったので断念した。次は頭の悪そうな人に「農協がお前の悪口を言っていた」と告げ口をして、自分達の代わりに農協を攻撃してもらおうと思い立ち、それなら大工が一番頭が悪そうだからいいんじゃないかという友達との共通偏見により、近所の材木所の大工に「農協の人がこの世に大工は必要無いと言ってたよ」と告げ口をした。悪口の度合いを間違えた結果、ヒクソン・グレイシー似の大工に殴られた。
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次は、農業に携わっている農家は農協の仲間であり僕達の敵だということにして、田植えをしている農家に八つ当たりをした。田んぼに忍び込み、田んぼの中を泳いでいるカブトエビを一箇所に集め、魚群のようなカブトエビの巨大な群れを作り農家を驚かせたり、農家のお婆さんがしゃがみ込んでケツを突き出して田植えをしてる後ろに回り込み、腰を思いっきり打ち付けて「どうや!どうや!」と言って回った。「お前は農協のせいでレイプされたんやぞ!」という素敵な捨て台詞を吐いていた友達は、今は実家の不動産屋を継いで社長になっている。
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こんなことをしても農協には何のダメージも与えれていないことに気づいた僕達は、もっとシンプルな方法で農協に復讐をすることにした。それは農協の入口の門を勝手に閉めるという単純な迷惑行為だった。農協の職員が目を離した隙に猛スピードで鉄製のスライド式の門扉を閉めて逃げることを繰り返して精神的苦痛を与えるのだ。ピンポンダッシュは逃げるスピードが大切だが、この門閉めダッシュは一気に扉を閉めるパワーと逃げるスピードの両方が要求される高度な悪戯なので、構造が似ている学校の校門で何回も何回も練習をした。農協の門を勝手に閉めてはいけないのだから、学校の校門も勝手に閉めてはいけない。先生に見つかった僕達はこっぴどく殴られた。
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短期間のうちに、学校の先生と農協職員と大工という異なる3つの職種の人に殴られた僕達は、復讐がいかに損しか産まない愚かな行為なのかを思い知った。今となっては、それを知るきっかけをくれた農協には感謝しかないが、農協の女性職員は全員ヤリマンだと思っている。



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by tsume_kirio | 2014-10-20 07:42 | 復讐 | Comments(9)