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バイからの手紙

以前働いていた職場にて、僕が面接をして採用した女性アルバイト二人が、二人ともバイセクシャルだった。二人とも仕事も出来て愛嬌のある良いバイだ。バイに良いも悪いもないかもしれないが。最初に採用したバイは面接をしている時点で「こいつはバイだ」と気づいたので「僕はバイセクシャルやレズで仕事のできない人を見たことが無い。少なくとも僕の周りにはいない。話してみて君も必ず仕事ができる人だと確信した。必ず採用するからね」と差別と偏見と高評価が入り混じった約束をした。微妙な笑顔で部屋を出ていくバイを見送った後「高校で生徒会長をしていたそうだが、その時点でバイだったとしたらバイセクシャル会長だったんだな…バイ会長。バイ会長の下で書記をしたかったなぁ…。夕陽が差し込む生徒会室で「私はこの学校が本当に好きなんだよ」って言われたら、号泣しながらバイ会長を抱き締めるだろうな…」とか「ずっと剣道をしていたのか…「面!面!バイ!」とか「バイ!バイ!胴!」とかふざけて叫んだりしなかったのかな…どこにぶつけていいか分からない自分の感情を叫びたくなった時もあるだろうに…僕がバイなら絶対叫ぶけどな…どうなんだろうな…」といろいろ妄想をした。数週間後の面接で事務所に入って来た第二のバイを見た時には「どうしてここにはバイしか面接に来ないんだ!」と思いながら面接をした。もちろんバイなので採用した。
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ある時、最初に雇ったバイ1号が自分の夢のためにバイトを辞めることになった。バイ1号とバイ2号を遠目に見ながら「行くバイもあれば残るバイもあり」と声に出してつぶやいた。勤務最終日にバイ1号から「自分の性癖を隠さずに働けた職場は初めてだったので気楽でした。嬉しかったです。今までお世話になりました」と書かれた手紙をもらった。「バイからの手紙」。あまり手紙をもらうことのない人生を歩んできた自分にとってとても嬉しい手紙だった。ちゃんとお礼を言うのが恥ずかしかったので「最後までしっかりしてる所がバイらしくて良いね」と言った。苦笑するバイに「君は君らしく、バイはバイらしく生きてください」と最後の言葉を送った。「映画の『ショーシャンクの空』みたいにあそこの壁に「バイ、ここにあり」って彫ってくれないかな?もう一人のバイの子が辞める時にその下に「もう一人のバイもここにあり」って彫ってもらうから」という最後のお願いは拒否されてしまったのでそれだけが心残りだ。
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手紙をもらうことも少なければ、手紙を送ることも少ない人生だった。唯一積極的に他人に手紙を送っていたのは、小学生の時の進研ゼミの赤ペン先生とのやり取りだったように思う。進研ゼミには毎号提出用課題があり、そこに赤ペン先生へ自由にメッセージを書ける通信欄がある。添削を担当してくれた赤ペン先生が返事も添えて返却してくれるという一種の交換日記のような場所となっていた。友達からそのことを聞いた僕はすぐにでもやりたかったが、うちの家は貧乏だったので進研ゼミを取るお金が無かった。なので進研ゼミをやっている友達に頼み込み通信欄だけ書かせてもらうというゴーストライター的なことをやっていた。最初の頃は「下着の色を教えろ」というような低俗なことを書いて送っていたのだが、そのような場合はそのことには一切触れず課題の出来にしかコメントしてくれないことに気づき、今度は返事をせずにはいられないことを書こうと思い「隣に住んでいる家族が変な宗教をしています。そいつらが裏庭で育ててる柿の木の枝が、うちの庭まで伸びてきて、その枝から落ちた柿を拾っただけで泥棒扱いされました。どうしたらいいですか?」という深刻な相談を書いて送ったら「先生にはどちらが悪いかは分からないけど、相手が怒っているのなら一応謝った方がいいかもね」という悲しい返事をもらった。そのことで多少壊れてしまった僕は通信欄に枠の大きさぴったりの味付け海苔を貼って送るようになった。春も夏も秋も冬も味付け海苔だけを貼って送り続けた。先生は課題の出来以外のことは何も言ってくれなかった。友達が進研ゼミを辞めることになり、最後の通信欄にもいつものように味付け海苔を貼った。いつもと違ったのは味付け海苔の裏に「今までありがとうございました。本当にごめんなさい」と書いたことだ。これが僕と赤ペン先生の全て。
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年を重ね、味付け海苔で作った年賀状を送るために郵便局と喧嘩をし、配送不可能と言われたことに腹を立て、元旦の朝に自分で年賀状を届ける大人に僕はなった。全て赤ペン先生のせいだ。
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by tsume_kirio | 2014-08-03 15:18 | 手紙 | Comments(6)