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鯉の季節

精神的に問題があったのかどうかは分からないが、親父がよく買っていた任侠物の漫画で、ヤクザが責任を取って指を詰めるシーンのコマだけをスクラップにして保存している時期があった。なぜそんな時期があったのかは分からない。これから先の人生でもし私の指が無くなるようなことがあったら、オメガマンの背中の手の指みたいに顔付きの指にしてやろうと思う。

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指を無くすといえば、地元の友人の父親は工場の事故で右腕を無くしてしまった人だった。片腕でも庭師としての仕事を器用にこなし、自分が片腕だということを自虐的なネタにして笑いを取るような明るい人だったので地域の人からの人気も高かった。もちろんわざと明るく振舞っていた部分もあるのだろうけど、基本的に楽しいおじさんだった。腕が無いことでだらんと垂れ下がっているシャツの右長袖を扇風機にはためかせ「鯉のぼり~!」と言う一発ギャグを越えるギャグに出会うことはこれから先の人生もきっと無いだろう。

親父さんは明るいだけじゃなくてとても大きな人だった。友達の家に遊びに来ている僕が何か悪いことをすると、ちゃんと殴って怒ってくれた。親父さんは片腕なので、殴る時に思いっきり身体を捻って反動をつけるので、左腕を振りかぶった勢いで、腕が無い方の右長袖が流されてきて、まず僕のほっぺたにペチッと当たってから左ビンタが来るという二段階式ビンタを食らうのが面白くて仕方なかったので、親父さんが長袖を来ている時を狙ってわざと怒らせてはビンタをもらった。なので自動的に冬によく悪さをしていた。

友達とキン肉マンの消しゴム、通称キン消しで遊んでいた時に、家で嫌なことがあってムシャクシャしていた僕は、全てのキン消しの右腕をハサミで切り落として「お前の親父みたいにしてやったぜ~!」と最低のことをした。それを見た友達は特に怒らずに「片腕もかっこいいや~ん!」と言ってくれた。なんて良い息子だ。大人になってから親父さんと友達と三人で飲んだ時に、いきなり片腕キン消しのことを親父さんがしゃべり出した。実は親父さんもその光景を見ていたけど「子供のすることやから…」と思って特に何も言わなかったそうなのだ。親子揃って懐の深い男達にきちんと謝罪し、そして感謝をした。その時に自分の初体験は車椅子の女性だったことを告白したら「人形の恨みやな」とそれはどうなんだというコメントを親父さんはしてくれた。
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歳を重ねても親父さんは常に笑いを提供してくれた。一緒に回転寿司を食べに行った時に、食事をし始めてから五分ぐらいして「不利だ」とつぶやいた時は寿司の味がしなかった。「この前富士山を見に行った時の写真や」と見せてくれた写真で、腕が無くてだらんと垂れ下がっている親父さんの右腕の部分と隣に立っている奥さんとの間にできた隙間に富士山が見えているという構図に舌を巻いた。

そんな親父さんも最近は自分が死ぬ時のことを常に考えているそうだ。葬式で出棺する時に棺を乱暴に扱われたら、寄り弁のように腕の無い方に自分の体が寄ってしまうんじゃないかと心配しているので「じゃあ腕が無い方に発砲スチロールでも詰めたらどうですか?」と提案したら「それは見映えが悪い」と言うので「発泡スチロールが見えないぐらいに綺麗な花を入れますよ」と返したら「そうしたら腕の無いこと気にして花で隠してるんかなとか思われるやん」とブラックマヨネーズの漫才みたいになったので話を止めた。そんな親父さんのおかげで指を無くすことを怖がらずに僕は働けている。ありがとう。
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by tsume_kirio | 2013-06-02 22:31 | 仕事 | Comments(2)