2015年 01月 21日 ( 1 )

金色夜叉

ここ最近の仕事帰りは職場から自宅まで歩いて帰っている。その所要時間は約一時間程度。特に中番終わりの深夜に歩いて帰ると、冬の肌寒さが身に染みて心地良い。歩きながら将来のこと、金のこと、異性のこと、いろいろなことを考える。もっぱら最悪なことばかり考える。前向きなことは何一つ考えない。それが異様に心地良い。歩いていると喉が渇くので、途中にある自動販売機で色々なジュースを買うのが一つの楽しみになる。同じ会社の自動販売機でも場所によって微妙に値段が違う。値段の違いが起きている原因を地理的な問題や設置しているお店の業種的な問題から分析するととても楽しい。嘘だ。楽しいわけないだろう。そんなことで楽しんでる人は一生インターネットでそういう分析をなさっておけばいいじゃないですか。


飲み物を二つ買い、コートの右ポケットに冷たい飲み物、左ポケットに温かい飲み物を入れて、飲み物を握り締めて帰る。徐々に右手が氷のように冷たく、左手が炎のように熱くなる。ダイの大冒険のフレイザードになった気分になり顔がニヤけてくる。深夜の道をニヤニヤして歩いているとよく職務質問をされる。中野の警察はちゃんと仕事をしているので安心だ。職質をされている時、氷の右手で警官の手を握り「僕は氷を操れる能力者なんです」と言った後に、灼熱の左手で「実は…炎も操れます」と控えめに手を握る。「実は…」じゃない。無事に家に着いてからは、灼熱の左手と氷の右手を交互に使って自慰をする。右手の冷たさがチンコに伝わる度に、雪女とセックスをしたくて冷蔵庫でキンキンに冷やしたオナホールを作ったり、積もった雪を固めて雪のオナホールを作っていた過去を思い出して泣けてくる。嘘だ。俺はよほどのことがなければ泣かない。泣く時はほとんどベローチェで泣いているが。
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そんな怠惰な日々を過ごしていたからか分からないが、職場に面倒な客が来た。ヤンキーの彼氏にメンヘラ風の金髪女のカップル。女が携帯電話を無くしてしまったので探してくれとのこと。男の頼み方が全部タメ口で、俺がカウンター業務で他のお客様に対応している横から「早く監視カメラとか巻き戻せよ!ハゲ!使えねえな!」とか言ってくる始末。現場をくまなく探した後に、カメラを巻き戻してチェックしても怪しい所は何もない。「もう一度お荷物の中を確認してくれませんか?」と言ったら「俺たちを疑ってんのかよ!殺すぞ!もっとちゃんと探せ!」と言われた。仕方なく床に這いつくばってゲーム機の下をもう一度探す。



しかし、このヤンキー男は繁華街によく居るタイプだから我慢できるとしても、自分の不注意で携帯を無くしておきながら、ただオロオロしてるだけで、激昂する男を諌めることすらしないこの女は何なんだろうか。紅夜叉みたいな顔しやがって。恥をしれ、夜叉。最近は病院に通院しているので医者との関わりが多い。俺の周りには医者とか夜叉とか「しゃ」の付く奴しか集まらない。医者、医者、医者、夜叉。医者、夜叉、医者、夜叉。医者、医者、夜叉、夜叉、医者の毎日であるよ。こういう夜叉のような女に限って、音楽を聴く時に「歌詞がすごく良いの!」とか言いそうだ。俺は音楽を聴く時に歌詞なんてどうでもいいんだよ。でもあいつは良かったな。スガシカオ。彼の「夜明け前」の「今、夜のヤミにむけ うちはなつ ぼくらの銃声は みえないそのカベを 一瞬で 突き破ろうとして 街にただ ひびいただけ」という歌詞はすばらしかったな。親父に焼却炉の中に閉じ込められて、暗闇の中でこれが人生最後のオナニーと決めてここうとしたら、どんなに考えても堀ちえみのことしか浮かんでこなくて、人生最後のオナニーを特に好きでもない堀ちえみで抜くしかなかった俺の空しさを見事に表した歌詞であると評価する。「ヒットチャートをかけぬけろ」の歌詞はどうかしてるけどな。
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そんなことを思いつつ、床を這いつくばりながら女の方をちらりと見たら、ワニ叩きゲームのハンマーをいじっていた。なんだそりゃ。そのハンマーはお前の剣か。剣といえば、お前のような奴が意外と幕末好きで新撰組大好きって感じの女だったりするんだろうな。偏見が思いっきり入るが、そういう女のほとんどは、幕末の志士や新撰組でマンズリしたいだけだろうが。お前の好きな沖田や土方のようには目立たない志士も居たんだよ。今の俺みたいに床を這いつくばってたんだよ。それを分かった上で沖田と土方でマンズリをしろ。そういえば板橋にある新選組の慰霊碑か何かにフラリと寄った時に記帳ノートが置いてあって、訪問者が思い思いの気持ち悪い言葉を書いていたんだが、そのノートの隅に二人の棒人間が刀の斬り合いをしているパラパラ漫画を描いてる奴が居た。どういうつもりだ。せめてどっちが新撰組なのかだけでも書け。少しモヤモヤしたぞ。私はあのパラパラ漫画に遺憾の意を表明します。
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ふと太鼓叩きゲームの奥の方に大きめの物体が見えた。形からいって携帯では無かったが一応懐中電灯で奥を照らす。そこに浮かび上がったのはきれいな桃だった。こんな所に桃?洒落た小型爆弾かもしれないが、自分は爆死にちょっとした憧れがあるのでかまわず桃を手繰り寄せた。中を確認したところ、桃の入れ物に入ったミツバチ毒のハンドクリームだった。桃の中にミツバチの毒が入っているなんて本当に洒落ているじゃないか。桃といえば天皇陛下のほっぺたも桃のようなほっぺただ。ここにもし陛下が居たなら「陛下、こんな所に桃がありました」と報告したい。きっと陛下は「これは本当に良い桃ですね。本当に良いですね」と二回言ってくれるだろう。そして俺は「失礼を承知で言いますが、まるで陛下のほっぺたのような桃です」と言いたい。割と本気で言いたいぞ。そんな妄想をしていたら「何かあったのかよ!」と怒りが頂点に達している男に声をかけられた。俺も三十五年間生きてきたので、すごく怒っている人に桃を見せちゃいけないことぐらいは分かっていたのだが、こういうことは言いたくて仕方ない性分なもので「すいません、携帯じゃなくて…桃ならありましたよ」と桃を見せつけた。一瞬の沈黙の後に「ちゃんと探してくださいよ」と男は言った。桃にはタメ口を敬語にする力があるらしい。「では桃は元の場所に戻しておきますね」と桃を太鼓叩きゲームの下にそっと戻した。なぜ元の場所に戻したのかは分からない。
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音楽家や作家でも何でもいいけど、他人に憧れて生きるだけの人生よりも桃の素晴らしさに憧れて生きる人生の方が楽しいんじゃないかと思う。


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by tsume_kirio | 2015-01-21 15:48 | 人生の終わり | Comments(5)