華麗なる一族   

私の人生で一番必要ないものといえば、それは車の運転だと思われる。過去に友人が運転する車でひどい交通事故にあった。デパートの立体駐車場をぐるぐると回りながら下りている途中、友人は「目が回った」という短いがインパクトのある一言を残し側面のコンクリート壁に激突した。飲み始めたばかりのCCレモンのペットボトルが自分の手を離れ空中をゆっくりと回転するのが見えた。シートベルトをしていなかった僕の体は衝撃で持ち上がり、一直線にフロントガラスに突き刺さり意識を失った。どれぐらい意識を失っていたかは分からないが、目を覚ました時に僕はまだ車の中で、友人は救急車も警察も呼ばずに運転席で体育座りでガクガク震えていた。「人間は本当に追い込まれると体育座りをする」という漫画で読んだ通りの光景だった。ぼんやりとした意識を振り絞りフロントガラスに目をやると、僕が頭をぶつけたと思われる場所に弾痕のような跡、そこから運転席側に向かって横一文字に大きなヒビが入っていた。恐る恐る「俺、今どうなってる?血出てる?」と友人に聞くと「何にもなってないよ…逆に怖いよ…」と半泣きで答えた。血が出ていないことに安心しながらも、確かに外傷が何も無いのが不思議な惨状だった。何とか気持ちを落ち着けて何度も考えてみたが、どう考えても僕は内に眠るエレメントパワーを発揮してしまったようだった。小さい時に光る虫に刺されて自分の体が木になってしまうという不思議な経験をした。それ以来、平熱が常に37度を越える体になった。「火」のエレメントパワーをその時に授かったのだ。生命の危機に瀕した瞬間に反射的にそのパワーが一気に放出され自分の身体を守ったのだろう。真面目な顔でその話を友人にしたら、しばらくの沈黙の後に「こんな時なのに優しいね…ありがとう…」と苦笑いをされた。優しい嘘のつける大人だと尊敬されてしまった。その後に病院に運ばれ脳の精密検査を受けた。外傷が無い分脳の中身にダメージがあるのでは…と不安な気持ちで診察結果を待っている僕のもとに「さっき飲みかけだったから…」と言ってCCレモンを差し出して来た友人に「サンキュー」と言った。今度は優しい嘘をついた。友人はジンジャーエールを持っていた。くるりの「ばらの花」の「ジンジャーエール買って飲んだこんな味だったけな」という歌詞が一番はまる場面だったような気がする。
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戦争で敵兵を千人殺したと言い張る祖父は、平安時代に弘法大師空海が作ったとされている祠に軽トラで突っ込んでしまった。立派な飲酒運転である。空海が封じ込めていた邪気は空に放たれ、その直後うちの地域は四国四県に水を供給している大きなダムが干上がってしまうほどの大規模な水不足に襲われた。祖父は空海の言い伝えを信じる老人達から総スカンを食らい数々の虐めを受けた。その中でも特に酷かったのは、うどん屋に入ってうどんを頼んでいるのにうどんが出てこないという虐めだった。爺ちゃんが「かけうどん大」と大きな声で何回言ってもいっこうに「かけうどんの大」が出てこない。ためしに僕も「かけうどんの大ください!」と言ったが、やはり「かけうどんの大」が出てこない。この世の中に「うどんをください」と言ってうどんが出てこない以上の虐めがあろうか。全ては空海があんな場所に祠を作るからいけないのだ。空海のせいで祖父はうどんを頼んでもうどんを出してもらえない地位の人間になってしまった。この一件があってから僕は「好きな坊主は特にいないけど嫌いな坊主は空海」とよく言うようになった。
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親父は大学時代にアマレスで鳴らした人で俗に言う体育会系の人である。ことあるごとに「逃げるな!」と僕を叱ったものだ。その反動により、喧嘩ではエアガンによる遠距離攻撃を主とする卑怯な子供に僕は育った。子は逆に育つものだ。そんな厳格な親父も車で失敗をした。人身事故。しかも逃げた。ぶつけられた方の女性が車から降りてきたのを無視して逃亡。立派な当て逃げ犯である。いつもは開け放たれている車庫のシャッターが閉まっているのを不思議に思い、シャッターを持ち上げた瞬間にフロントがボロボロになった親父の愛車を見た瞬間「ベギラゴン…」と思った。

その夜さらに驚く出来事があった。深夜に見慣れない男性2人が尋ねて来たので「これは逮捕かな…」と察した僕は、応接間の扉を軽く開け親父の逮捕の瞬間を今か今かと待った。そんな僕の目に飛び込んできたのは、地面に頭を擦り付けて土下座をしている親父の姿だった。親父は自分の友達とそのお父さんを呼んでいた。その友達のお父さんは県議会の副議長をしている実力者だった。二人に土下座しながら「あなたの力でこのことを何とか穏便に済ませてください…」と親父は懇願していた。映画「道」のラストシーンで慟哭するザンパノのように泣き叫ぶ親父を見て「大丈夫、逃げてない。ちゃんと戦っているよ」と僕も泣いた。この言葉は親父にはまだ伝えられていないし、この先伝えることはずっとないだろう。この一件で親父をさげすむような気持ちを持つことは無かったが、この一件が有ってから後に僕はギャルゲーにひどくハマッたので何かしらのショックは受けていたようだ。副議長は何とか罪を軽くできないか色々動いてくれたようなのだが、しょせん副議長なのだから罪をもみ消すことなどできるはずもなく、親父は当て逃げ犯として逮捕された。
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親父のこの一件もあり、うちの家族はずっと副議長を応援せざるを得なくなった。副議長は「罪をもみ消せ」などというひどいお願いをされたのに、その後もうちの家族を懇意にしてくれた。その上、副議長の力で、うちが所有する畑に国道を通す計画を立ち上げてくれ、土地代として国からたくさんお金をもらえるようにまでしてくれていたのだが、ある時の県議会選挙で親父は副議長に一票を投じに行かなかった。その理由が「雨がひどかったから…」という苦しい言い訳だったことに加え、運悪く落選までしてしまったことで元副議長の逆鱗に触れた。落選により政治力を失った元副議長が、自分の政治家生命を懸けてその後にしたことは、国道計画を変更し、下の図のように露骨にうちの畑を避けて国道を作ることだった。畑を避ける為に無理なコース取りをした結果、このカーブは魔のカーブと言われる交通事故多発地帯になった。僕の親父はこの世に魔のカーブを産んだ男なのだ。それは尊敬に値する。
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以上のように、うちの家系は三代続けて車に関わると本当にろくなことがないのだ。書いてるうちに、転勤を言い渡されたら退職しようという気持ちが強くなった。

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by tsume_kirio | 2014-05-02 19:37 | 人生の終わり | Comments(10)

Commented by ねこ at 2014-05-02 19:59 x
こだまさんのブログからたどり着きました。お邪魔したいと思ってます。ツメキリオさんのお話も楽しみです(^^) 私は銃を持っていません。
Commented by りえ at 2014-05-02 22:04 x
前回のコメントにマジレスすると、現実はそんなもんじゃないですよと言いたいところでしたが、最後の唐突なお知らせにいま変な汗が止まりません
Commented by tsume_kirio at 2014-05-03 01:41
・ねこさん
あんな僻地までご足労頂けるようで本当にありがとうございます。
こだまさんの前のお茶濁しとして読んでいただければ幸いです。
北海道からわざわざ出てくるこだまさんに優しい声をかけてあげてください。

・りえさん
春でポカポカしてきたから変な汗でも何でもいいから汗をかいた方が健康に良いと思いますよ。
生きてりゃ汗をかくこともある。
そう思って生きていきたい。
Commented by ちだまちし at 2014-05-06 11:10 x
なし水売り切れ…
刷ってくれませんか?
爪切り男さんの面倒が増えんのは申し訳ないとおもいますが(本当は全然思ってません)どうか検討シクヨロお願いします。
Commented by ゆうこ at 2014-05-06 11:17 x
都合がつかず伺えませんでした(涙)
私も通販希望します!
ぜひご検討をお願いします^_^
「逆にこわいよ」のところ、めっちゃうけました
Commented by tsume_kirio at 2014-05-08 05:07
・ちだまちしさん
暇が潰れるので面倒なことだとは思っていませんので通販をする準備を進めています。詳細が決まり次第このブログで告知できればと思っていますのでお待ちください。大人のコメントを返しました。

・ゆうこ さん
逆に通販をしてみることにしました。
素人の通販なのでグダグダな部分もありますが頑張ります。
Commented by ゆうこ at 2014-05-10 23:30 x
楽しみにしてます!
Commented by ハニマルコ at 2014-05-18 07:51 x
なし水、私もほしいです。通販お願いします。神田などに飾って毎日祈りを捧げます。
Commented by 大工 at 2014-05-22 21:58 x
その議員さん去年亡くなりましたよ
Commented by tsume_kirio at 2014-05-26 00:15
・ゆうこさん、ハニマルコさん

通販を開始しました。きっと送れますし、遅れます。よろしくお願いします。

・大工さん
うちの近所の材木屋の大工さんはたくさんのカブトムシを金槌で殺していました。

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