初体験 その7

帰りのエレベーターの中で、初体験が終わったことをようやく実感していた。それと同時に冷静になった頭で「中で出していいという彼女の言葉が実は嘘で後でお金請求されたらどうしよう…」と焦った。でも親父が「○○先生(県議会議員)のはからいでな!うちが持ってる畑に国道が通ることになるんや!近々大金が入るから貧乏脱出や!」と言ってたことを思い出し「国万歳!国道万歳!○○先生万歳!」と心の中で叫ぶ僕と行きのエレベーターよりもねちっこいボディタッチをして来る彼女を乗せてエレベーターは進んだ。

帰りの計画としては、ホテルを出たらふもとのカラオケボックスまで下りて、実際にカラオケを少しだけして、頃合を見計らってボランティア部の友達に車で迎えに来てもらう。時間をかけて帰りの坂道を下れば、いくらか汗をかいてシャワーを浴びたことも分からなくなってごまかせるだろうと思っていた。

フロントに差し掛かった所で、彼女がいきなりフロントのおばさんに声をかけてタクシーを呼びつけた。タクシー代なんて余裕が無かった僕が詰め寄ったら「ごめんねぇ…実は私お金はけっこう持ってるんだよねぇ…親がこんな身体の私にお金だけは不自由させたくないってさぁ…でもさぁ変な人にお金は使いたくないからねぇ…騙してごめんねぇ…ごめんよぉ…」と彼女は両目を閉じて手を合わせて謝った。「良い人だったしぃ…あんなに私を抱いてくれたからぁ…嬉しかったよぉ…だから帰りのタクシー代は私にせめて出させてぇ!」と頭を下げてお願いしてきた。僕は「ありがとう」と笑顔で答えつつも「この人信用できないかもしれない…もしもの時はほんまに国道に頼るしか…」と国道のことばかり考えていた。

タクシーの運転手は彼女の顔見知りのようで「今日はえらく若い男をつかまえたっちゃねぇ!」と方言丸出しで話しながら彼女を手際よく車に乗せた。動き出したタクシーの中で、彼女と運転手は大声で世間話を始めた。会話に入れない僕は夕暮れ時の海を見ながら二人の会話を聞かないようにしていた。するとしばらくして彼女がいきなり僕の方を向いて「私と付き合ってよぉ!付き合ってよぉ!」と抱きついてきた。僕は一瞬固まった後に、本当に反射的に「ごめんなさい。それは無理です」と断った。しっかり考えた結論と言うよりも、本当に反射的に断ったとしか表現のしようが無い。彼女は僕の返事を聞いてしばらく黙った後に「そうだよねぇ…仕方ないねぇ…」と言った。

運転手も何も話さなくなり重苦しい雰囲気が車内を包んだ。彼女がその沈黙を破って「でもねぇ…あなたよかったよぉ…最初が私みたいな障害を持った女でねぇ…私は最低の女だよぉ…嘘もついたしねぇ…面倒くさいしぃ…だからあなたが次に付き合う人は私よりは絶対に上の女だよぉ!だからどんどん恋した方がいいよぉ!あなた優しいしぃ…私みたいに可愛くない女とたくさんHできるスケベだしねぇ!絶対幸せになるんだよぉ?」と言ってくれた。その言葉を聞きながら僕は自然と泣いてしまった。今日一日のこと、その時々に思ったこと、国道がどうのこうのとか思ってた自分が恥ずかしくなったこと、今の彼女の言葉、その全部がごちゃまぜになって泣きながら「うん…うん…」とうなずいていた。

やがてタクシーが彼女の降りる場所に到着して彼女は無言で降りた。僕も何も言うことができなかった。するとしっかりと車椅子に乗った彼女が僕の方を振り向いて「楽しかったよぉ…ありがとうねぇ!」とそれだけ言って振り返ることなく車椅子を自分の力で押して帰っていった。僕はそれをずっと見ていた。

彼女の居なくなったタクシーの中で、ぼんやりと少年マガジンで連載されていた恋愛漫画の「BOYS BE…」で、年上の女性に誘われるまま初体験をした主人公が、女性の彼氏にバレてボコボコにされた後に路地裏で吐きながら「初体験したって何も世界は変わらないじゃねえか…」みたいなことを言うエピソードのことを思い出していた。そして「さすがに変わった…」と今日一日のことを考えて思った。

自分のアパートに着いてタクシーを降りようとしたら、運転手が「あんた何も間違ってないとよ!気にしたらいかんよ!あの人強いから大丈夫よ!また次の捕まえるけんね!」と声をかけてくれてまた泣きそうになった。その日の夜に居てもたっても居られなくて初めて一人で居酒屋に飲みに行く初体験もした。

その後彼女からは一切も連絡は無かった。僕からも連絡を取ることも無かった。でも街を行く車椅子の人や冬木の写真を見るたびにすぐに彼女のことを思い出す。冬木が死んだ時は冬木だけじゃなくて彼女まで死んだような二人分の悲しみがあった。僕にとって彼女はこれからも忘れられない大切な女性である。

後日談として、その後に最初に僕が付き合った女性は、ヤリマンで新興宗教にはまっている女性だった。「必ず私より上の女と付き合えるからねぇ!」と言ってくれた彼女の言葉が身に刺さった。そのヤリマンと一緒に「ジョゼと虎と魚たち」という映画に行った。すごく簡単に言えば、車椅子の女性と健常者の男性の恋愛の物語である。2人のセックスシーンを見ながら「俺の時と全然違う」と思って笑って、主人公の男がその女性を振ってから泣いている場面を見て「泣いてる気持ちがなんとなく俺には分かるよ」とヤリマンに言ったら「私にも分かる!」と同調されてまた笑った。

また、行きの車を出してくれたボランティア部の友達とは、その後に二人で酒を飲んだ時に、彼に嘘をついているのが辛くなって全てを告白したら、1週間ぐらいで知り合い全員に「千葉の初体験は車椅子」という感じで広まっていた。ボランティアをする奴の行動力は恐ろしい。

さらに関係ない話だが、話に出た国道に関しては、俺と親父がその県会議員の人とちょっとしたトラブルを起こしてしまい、下の図のようにうちの畑だけを綺麗に避けた立派な国道が通ることになるのだが、その話もまたいつかしたいと思う。以上で初体験の話を終わります。
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Commented by うんこ at 2013-03-12 00:22 x
良い
Commented by うんこオブうんこ at 2013-03-12 00:32 x
よいな
Commented by キラヴァンツうんこ at 2013-03-12 03:34 x
よかったです
Commented by ひねりだすうんこ at 2013-03-12 09:51 x
とてもよい
Commented by ねじったうんこ at 2013-03-12 10:24 x
かなりよい
Commented by うん子 at 2013-03-12 23:22 x
よいと思います!
Commented by うんこ姫 at 2013-03-13 09:33 x
GJ!
Commented by unko at 2013-03-13 10:43 x
よい…
Commented by 草井運子 at 2013-03-13 19:51 x
いいね!
Commented by うん臭きつ子 at 2013-03-13 19:59 x
これは良いうんこ(((o(*゚▽゚*)o)))
Commented by ウーーーールフ at 2013-04-06 20:18 x
泣けるー
Commented by tsume_kirio at 2013-04-11 23:07
ウーーーールフさんとウンコ達へ

ウーーーールフさんには申し訳ないのですが、たくさんのウンコとまとめてお返事をしてしまいます。ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
Commented by n at 2013-08-30 02:40 x
最高でした。著名な作家が名を伏せて書いてるんじゃないかって何度も思うくらい、最初から最後まで完全にはまりこんで楽しく読ませてもらいました...
「会話に入れない僕は夕暮れ時の海を見ながら二人の会話を聞かないようにしていた」って一節がたまらないです。
爪切男先生の小説が本屋に並ぶ日を僕は待ってます。
Commented by tsume_kirio at 2013-09-06 23:55
> n さん
ありがとうございます。僕はただのバッティングセンター店員ですので気楽に読んでくれたら嬉しいです。職場の事故で指を無くさない限りブログはのんびり書こうと思います。
Commented by はる at 2014-03-23 13:52 x
なんか元気出ました。ありがとうございます。
Commented by 古時計修理が趣味な骨折介護士♪ at 2014-04-15 17:22 x
 ブログ全部読みました、思い出深い話しいっぱいで楽しかったです
自分も田舎に居た頃は不幸な悪戯職人でした、教室のストーブに卓球ボール複数仕掛けて火災騒ぎ起こしたりw
自力で田舎を出たのでなく車椅子の女性に助けられ脱出を遂げ現在は幸せです、その人とは別れましたが
Commented by tsume_kirio at 2014-05-03 01:35
骨折介護士というお名前がもう格好良いですね。
古時計修理は他人のもしてあげれば余計なお世話この上無くてすばらしい悪戯な趣味になると思います
Commented by at 2017-01-17 22:44 x
よいぞよいぞ
Commented by あたた at 2017-03-11 01:42 x
物凄く興味深いです。
実は明日、出会い系で知り合った車椅子の女性と会って来ます。ご飯の予定ですが。それで、どんな感じなのだろうと検索していたら辿り着きました。
文章うますぎですね。
Commented by tsume_kirio at 2017-03-20 22:15
> あたたさん
コメントありがとうございます。
素敵な出会いになりましたでしょうか?
私の文章が参考になるとは思えないのですが幸せな結末になっていることをお祈りしています。
by tsume_kirio | 2013-03-11 23:13 | 初体験 | Comments(20)